Vol.8 信頼される動物病院を目指して ーグリーフケアについてー
院長コラム 2015.11.16
副院長の伊藤です。
先日、スタッフ全員でグリーフケアについてのセミナーを受けました。
まだ、グリーフという言葉は一般的に浸透しておらず、私も「グリーフ」というものを正確に理解しないまま、セミナーを受けました。
セミナーを受けたきっかけは、
「飼い主様の悩みで比較的多いのは、獣医師に聞きたいことが聞けないこと」と知人から聞いたことが始まりです。私たち動物病院のスタッフは、いつも飼い主様の気持ちにそって治療をしたいと考えています。そのために、努力していますが・・・。でも本当に病気の動物の飼い主様の気持ちを理解できているのかともう一度省みて見るいい機会になればと思い、グリーフケアに興味を持ちました。
グリーフとは、わかりやすく言うと「悲嘆」という意味です。
たとえば一緒に暮らしているどうぶつたちが病気にかかり、いままで当たり前だった平和な日常生活、健康な日々が損なわれてしまうと、飼い主様は喪失感に襲われ、心身ともに苦しい状況に陥ってしまいます。これがグリーフです。
このように考えると動物病院ではグリーフがとても多いのです。
セミナーのなかで、先生が私たちスタッフに問いかけてくださったのは、
私たちの病院は、飼い主様がいつもと様子の違う動物をみて、なにか悪い病気ではないかと心配しながら初めての病院に緊張しながら入ってくる時の気持ちを本当に理解し、受け止められているか。
家族として一緒に暮らしている動物が、重い病気にかかってしまった飼い主様の気持ちを真剣に理解し、その気持を受け止め、飼い主様の気持ちが落ちついてから、治療のお話を進めているか。
毎日自分を心配して元気がない飼い主様と過ごす動物たちは不安にならないか?
今までずっと当たり前のように暮らしてきた動物が、ご家族にとってどれだけ大切な存在であるか。そして、大切な家族を亡くしてしまった飼い主様の気持ちはいかほどか。
これらの気持ち(つまり悲しい気持ち)を無視したまま話を進めると、飼い主様はリラックスして私たちの話を聞くことができないため、スタッフの話を理解できなくなってしまう。そして、聞きたいことも聞けず、よく納得出来ないまま治療を、進めるしかなくなってしまい(病院スタッフとしてはご理解いただいていると思っている)、さらに不安や心配がつのってしまう。病院のスタッフも、一生懸命動物のケアや治療について飼主さんにお話しても、理解してもらえない、信頼してもらえないというのはとてもつらいことです。双方ともに動物たちにとってよりよい治療を!と願っていても、ちょっとしたすれ違いでうまくいかなくなってしまうことを学びました。
元気だった動物が突然病気になってしまった。健康だと思っていた、これからもずっと元気だと思っていたのになぜ突然?冷静にならなきゃと思いながらもパニックになってしまう飼い主様がいて当然です。そう思いながら診療を進めているつもりですが、汲み取れきれていない部分があるのかもしれないとグリーフケアの先生のお話を聞き、正直反省しました。飼い主様によって悲しみの表し方は様々です。それでも、悲しい気持ちを私たちに話してもらえるように信頼関係を築き、その時そのときの飼い主様の気持ちに合わせて説明していく努力が必要だと痛感しました。
小さなグリーフから大きなグリーフまで、動物病院では楽しいことだけでなく、不安や悲しみも多く存在します。その気持を理解し、共感した先に本当の良い治療があるように感じました。
まだまだ動物病院は、「病気や怪我の治療をするところ」というイメージですし、もちろん実際に良い治療が受けられなければ病院とはいえないと思うのですが、それを大前提として、この治療だけというイメージを払拭し、もっと総合的に動物やそのご家族をサポートできるコミュニケーションの場にしていきたいと思います。