お知らせ

NEWS

Vol.2 「インフォームド・コンセント」について

院長コラム 2012.07.10

動物病院のホームページなどを見ていると、「インフォームド・コンセント」という言葉をよく目にします。「正確な情報に基づき、患者(飼い主)の責任で検査や治療などの医療行為を選択する」という意味なのですが、ヒト医療においてもどうぶつ医療においても非常に重要視されている概念の一つとなっています。当院でもこの概念を重視して日々診察をしていますが、あまりインフォームド・コンセントという言葉に馴染みがない方に一度自分なりに説明したいと思い今回のコラムに取り上げてみました。

 

この概念で重要なことは2つあります。一つは患者(飼い主)側が最終的に責任をもって治療検査を選択するということです(とても重いことですね)。しかしその決断を下すためにはその治療検査を選択するための十分な判断基準を得なければなりません。つまり2つ目のポイントは、医者や獣医師は患者(飼い主)に正確な情報を提示し、十分に(専門家でない人が理解できるように)説明する義務があるということです。

 

実際の動物医療の現場に当てはめて考えてみましょう。ある病気に対して現段階における医療的にベストな治療法は存在すると思います。しかし、どうぶつ医療の場合、どうぶつ側の事情、飼い主の事情、そして獣医師側の事情によってそのベストの方法をとれるということはまずありません。たとえば高齢のねこちゃんが腎不全の疑いで来院したとしましょう。この場合、検査として、血液検査、尿検査、レントゲン検査、エコー検査などが勧められます。血液検査と尿検査を行えば腎不全の診断は付けられると思いますが、レントゲン検査やエコー検査をすることにより全身状態の把握や腫瘍の有無、他疾患の除外など多くの利点はあります。検査にかかる費用とそれでわかることを一通り説明して、あとは飼い主さまがどの検査をするか選択することとなります。とりあえず血液検査と尿検査で慢性腎不全ということが診断できたとして、次にでは治療はどうしようということになります。
ねこちゃんの慢性腎不全の治療となると、

    1. 食事療法
    2. 血圧降下剤や解毒剤などの薬物療法
    3. 補液療法
    4. 吐き気のコントロール
    5. 貧血のコントロール
    6. 透析

 

などといったところが選択肢としてあげられます。⑥の透析はほとんどの病院で行うことができない(獣医師側の問題)ため、上記の①〜⑤の治療が一般的な選択となります。我々はこの治療をするとどのくらい治療効果があるのか、副作用について、かかる費用、いつ頃から開始すると効果的なのか、あるいは治療をしないとどうなるかなどを説明します(医療的な証拠が充分でないものに関してはその旨も伝えます)。すべての治療ができればよいのですが、例えばこのねこちゃんが特定のフードしか食べないとか、薬を飲んでくれない(どうぶつ側の事情)とか、仕事の関係で頻繁に通院するのが難しいため補液療法は選択できない(飼い主側の事情)とかで、治療の選択肢は絞られてきます。結局このねこちゃんの飼い主さまは無治療で経過を見ていくことを選択するかもしれません。しかし我々獣医師が十分に説明をし、飼い主さまが病気そのもののことや治療検査について十分に理解した上で自分で責任をもって選択したことであれば、我々はその選択を尊重するし、飼い主さまも後悔が少なく前向きに病気と向き合っていけるのではないでしょうか。もちろん慢性腎不全のような治らない(そして確実に数年後に死を迎える)病気に対して向き合った患者さまが後悔しないということはないのでしょうが。

 

繰り返しになりますが、どの検査治療を選ぶか最終的に決断するのは飼い主さまです。我々獣医師はこの決断をサポートするために、検査、治療の選択肢をできるだけ多く提示し、そのメリット・デメリット、費用面もしっかり説明する義務があります。飼い主さまが後悔の少ない治療を選択し、結果としてどうぶつたちの生活の質(QOL)が少しでも高くなるように、医療技術を高め設備を充実させることはもちろん、説明能力も向上できるように努力していきたいと考えております。説明の時間が少々長くなることはご了承くださいね。


ページトップ